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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)11953号 判決

原告(被参加人) 滝本忠夫

被告(被参加人) 松本与四郎

当事者参加人 竹末一郎

主文

原告の請求を棄却する。

原告と参加人との間において、参加人が別紙物件目録〈省略〉二記載の源泉権を有することを確認する。

原告は、参加人が右源泉権に基づいて源泉の採取、利用、管理およびそのための建物・工作物の建築・所有のために別紙物件目録三記載の土地を使用することを妨げてはならない。

参加人の原告に対するその余の請求および被告に対する請求を棄却する。

訴訟費用のうち、参加人に生じた費用は、これを二分し、その一を参加人の、その余を原・被告の負担とし、原・被告間においては、被告に生じた費用を二分し、その一を原告の負担とし、その余の費用は各自の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告-「被告は原告のため、別紙物件目録二記載の源泉権(以下本件源泉権という。)について、和歌山県知事に対し、名義変更の届出をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決。

参加人の請求に対し、「参加人の請求を棄却する。参加による訴訟費用は、参加人の負担とする。」との判決。

二、被告-原告の請求に対し、原告の訴の却下を求める旨の異議をとどめて、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決。

参加人の請求に対し、「参加人の請求を棄却する。参加による訴訟費用は、参加人の負担とする。」との判決。

三、参加人-「1 参加人と原告との間において、参加人が本件源泉権を有することを確認する。

2 被告は参加人のため、本件源泉権について、和歌山県知事に対し、名義変更の届出をせよ。

3(一) 原・被告と参加人との間において、参加人が別紙物件目録三の1記載の地上権を有することを確認する。

(二) 右請求が認められないときは、原・被告と参加人との間において、参加人が同目録三の2記載の賃借権を有することを確認する。

(三) 右請求がいずれも認められないときは、原・被告と参加人との間において、参加人が同目録三の3記載の賃借権を有することを確認する。

4 原告は、参加人が、本件源泉権に基づき、温泉の採取、利用、管理およびそのための建物・工作物の建築・所有のために別紙物件目録三記載の土地を使用することを妨げてはならない。

5 訴訟費用は、原・被告の負担とする。」との判決。

第二、原告の請求について

一、(請求の原因)

1  別紙物件目録一記載の各土地(以下本件各土地という)の所有権および本件源泉権は、もと被告のものであつた。

2  被告は訴外ヴイジヨン興発株式会社(当時の商号はヴイジヨン開発株式会社)に対し、昭和三八年一二月二七日本件各土地の所有権および本件源泉権を売渡し、同日原告の代理人高島徹三は同会社から、本件各土地の所有権および本件源泉権を代金一、五〇〇万円で買受けた。

そして、その際、原告代理人高島徹三、被告およびヴイジヨン興発株式会社の三者間において、被告は中間を省略して直接原告のため本件源泉権について和歌山県知事に対し名義変更の届出をなす旨の合意が成立した。

3  仮に、前項の事実が認められないとしても、被告は原告の代理人高島徹三に対し同日本件各土地の所有権および本件源泉権を売渡した。

そして、その際、原・被告間において、被告は原告のため本件源泉権について和歌山県知事に対し名義変更の届出をなす旨の合意が成立した。

4  ところで、和歌山県温泉法施行細則(昭和二三年和歌山県規則第五八号)第九条には、源泉権者がその権利を譲渡したときには一〇日以内に和歌山県知事に対し名義変更の届出をしなければならない旨定められており、同県は右届出名義人を源泉権者として取り扱い、同名義人のみが白浜温泉組合に加入することができ、また、他へその源泉権を譲渡することができるという慣習がある。

5  よつて、原告は被告に対し、2、3記載の合意に基づき、原告のため本件源泉権について和歌山県知事に対し名義変更の届出をなすことを求める。

二、(本案前の被告の抗弁)

本件各土地の所有権および本件源泉権の売買は、訴外西川芳夫の主唱ではじまり終始その意に従つてなされたものであつてその代金も同訴外人が出捐している。原告が右代金を同訴外人から借り受けてこれを支払つた事実も同訴外人を代理した訴外高島徹三が原告から委任をうけた事実もない。

従つて原告は、訴訟外においても、訴訟の進行に関してもすべて訴外西川芳夫に一任し、そのいうがままになつていたものである。その端的なあらわれは、訴外西川芳夫は訴訟を予想して原告にその住民票上の住所を東京に移転せしめたこと、原告が契約締結にあたつての原告代理人と称する訴外高島徹三の顔すら知らなかつたことにある。

以上のような次第であつて、実質的な権利者である訴外西川芳夫が権利名義を訴訟実施の目的で受託者たる原告に移転しているものというべきであり(信託法一一条)、仮にそうでないとしても、同訴外人が実質的権利そのものを留保しながら、その訴訟実施権のみを原告に与えているものというべく、いわゆる任意的訴訟信託に該当し、無効というべきであるから、原告は、当事者適格を欠き本件訴は不適法で却下されるべきである。

三、1 (原告の請求原因事実に対する答弁、抗弁)

(一)  被告

(1)  請求原因1の事実は認める。

(2)  同2、3の事実は否認する。もつとも、被告は、昭和三八年九月二八日訴外株式会社ヴイジヨンとの間で、本件各土地および本件源泉権を三、二二〇万円で売渡す旨の契約を結んだことがある。しかし、右会社は被告に対し、右代金中一、二〇〇万円を支払つたのみである。

(3)  同4の事実中、和歌山県温泉法施行細則第九条に原告主張のような定めのあることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  参加人

(1)  請求原因lの事実を争う。

被告は昭和二八年本件源泉掘さくの許可をうけ、その後右掘さくを参加人に依頼したその結果参加人がその請求原因として後記第三の一の1で主張するとおり、右掘さくの成功により本件源泉権を取得することとなつた。

(2)  同2、3の事実は不知。

2 (抗弁)

(一)  被告

仮に請求原因2、3の事実が認められるとしても、

(1)  原告主張の前記売買における被告の売渡の意思表示は、錯誤により無効である。すなわち、被告は、右売買における買主を株式会社ヴイジヨン、目的物を別紙物件目録一の各土地の所有権のみと信じて、同会社代表取締役山口浩資らの差出した書面に捺印して売渡す旨の意思表示をしたのであるが、はからずも原告主張のような本件源泉権をも売渡す旨の意思表示をしたことになつたものと思われる。

従つて、被告の右売渡の意思表示は、その重要な部分である買主および目的物について錯誤があり、無効である。

(2)  仮に右主張が認められないとしても、右売買はヴイジヨン興発株式会社代表取締役と称した山口浩資および原告代理人と称した高島徹三らの詐欺によるものであるから、被告は、右売買を取消す旨の意思表示をした。すなわち、被告は参加人に対し昭和三八年中に前記温泉の掘さく費用を支払わなければならなかつたところ、山口浩資および高島徹三らは、それにつけこんで被告を欺罔し、本件土地の所有名義を原告に移転させ、それによつて金融業者である原告から一、五〇〇万円を借出し、そのうち一、二〇〇万円を被告に支払い残代金の支払いを免れ、これを利得し、併せて本件各土地や本件源泉権を騙取しようとはかり、同年一二月二八日被告に対しこもごも「今日は手附金として一、二〇〇万円支払う。残額は一月一八日までに必らず支払うから、とにかく温泉権利を除き、本件各土地の所有権移転登記をしてほしい。登記所は今日で終るから早くしてほしい。」「署名捺印してもらわぬ限りは、金を渡すわけにはいかない。」等と申し向けて、被告をして本件各土地の所有名義のみを株式会社ヴイジヨンに移転登記するものと誤信せしめ、既に準備していた書面に捺印させ、もつて原告主張の本件売買契約を成立せしめたものである。よつて、被告は原告に対し昭和四一年三月二八日の本件準備手続期日において本件売買契約におけるその意思表示を取消す旨の意思表示をした。

(二)  参加人

(1)  仮に原告主張のように、本件源泉権について被告とヴイジヨン開発株式会社間に売買契約が成立していたとしても、それは公序良俗に反し無効である。すなわち、

(イ) 右会社の代表取締役山口浩資は、昭和三六、七年ころから本件源泉権が参加人の所有であることを知り、参加人に対し度々その譲渡を申し入れており、一方参加人も、被告と参加人間の本件源泉権の譲渡に関する契約書(丙第一号証)を同人に示したこともあつた。従つて、同人は本件温泉の掘さく費用を参加人が負担したこと、その周囲の土地を参加人が被告から譲り受ける旨の契約があること、それらの名義が未だ被告名義のまゝであること、そして第三者がもし被告からそれらを譲り受けて、対抗要件を具備すれば、参加人の本件源泉権およびその掘さく地の取得が害されることを熟知していた。

それで、同人は参加人を害することを承知であえて被告と通謀し本件源泉権の買取りを企図した。

(ロ) そこで山口浩資は被告に対し、本件源泉権の買い受けの申込をしたが、当初、被告は参加人の所有するものである旨を告げてこれに応じなかつた。

しかし、被告は温泉の湧出をみて、昭和三八年九月ころ、再び同人らから「本件源泉権の登録名義および本件各土地の登記名義がいずれも被告になつているから、他に売却することが可能である。」旨告げられて、本件源泉権を山口浩資とともに不法に領得するべく通謀のうえ、前記会社と本件源泉権の売買契約を締結した。

(ハ) ところで、源泉権の売買は極めて稀なことなのでその代価の算定は非常に困難であるが、温泉掘さく費用とその成功の割合や湧出量から、これを決定することができる。温泉掘さく業者が地質調査のうえ掘さくをはじめた場合に温泉が湧出する割合は、右掘さく井戸一〇〇本のうち四本位であり、平均二五本に一本位ということになる。井戸一本の掘さく費は本件温泉掘さく当時で六〇〇万円位かゝつている。したがつて、源泉権を売買する場合には、売買代金は、当然掘さくしても湧出しなかつた二四本分の工事代金に相当する割合の金額一億四、四〇〇万円を加算した一億五、〇〇〇万円と算定することができる。

ところで本件温泉は、温度地上七二度、地下九二度、湧出量一日三、六〇七・八キロリツトル(二、〇〇〇石)で、白浜の温泉地にあつて今後掘さくの許可されない地区であるから、通常の温泉以上の価値を有しており、その価額は一億五、〇〇〇万円相当と見るのが妥当である。

しかるに、前記代価は僅か一、二〇〇万円であつて右価額の一〇分の一にも満たないものであるから、本件売買契約は正常な契約ではなく、前記通謀による横領行為であることは明らかである。

(2)  また、仮に、原告主張のように、原・被告間に本件温泉権および本件各土地の売買がなされたとしても、右売買は、被告の軽卒・無経験に乗じ、原告が不当な利益を博するためになされたものであるから公序良俗に反し無効である。すなわち、

(イ) 右売買は売渡担保の趣旨でなされたものとも考えられるが、原告から金員を借用した者はヴイジヨン開発株式会社であつて被告ではない。売主たる被告が買主たる右会社から売買代金の一部を受けとるため売買の目的不動産等を、買主への融資主である原告に対し担保として提供するということは常識上ありうべからざることである。

しかるに、本件においては、被告は前記貸主との間での本来の売買代金三、二二〇万円の半額にも満たない一、五〇〇万円のために、三ケ月後二、〇〇〇万円で買戻す約定はあるが、本件各土地および本件源泉権を原告に対し売渡抵当に提供しているのであつて、これはまさしく被告の軽卒・無経験に起因するものである。

(ロ) また、原告は金融業者であるから、物件の評価についてはもとより、金融に当り最も利益をあげうる方法等を熟知しているものである。原告は、ヴイジヨン開発株式会社に前記売買のため一、五〇〇万円を融通するにあたり、同会社と被告間の本件源泉権売買の内容を知り、また、同会社にとつてその手付金や代金の支払が容易でないのみならず、右代金完済の見通しもなく、さらに被告にも期日に買戻代金二、〇〇〇万円支払の確実な見通しがないことを承知のうえで、被告の軽卒・無経験に乗じ、不当の利益を博そうとして、貸付金額の一〇倍に及ぶ本件源泉権および本件各土地を売渡担保に提供させたものである。

3 (抗弁事実に対する原告の認否)

いずれも否認する。

第三、参加人の請求について

一、(請求の原因)

1(一)  参加人は、被告との間で昭和三〇年一月二三日次のとおりの約旨で温泉掘さく契約を締結した。

(1)  掘さく場所 本件土地3乃至9。

(2)  掘さく費用 参加人が負担する。

(3)  温泉が湧出した場合には、参加人がその源泉権を取得し、その他温泉に関する一切の権利を参加人に譲渡する。

(4)  右源泉権について官庁関係に対する名義変更を求めた場合には、被告は参加人のため右名義変更届出をなす。

(二)  参加人は、右契約に基づき同年四月ころから掘さくを開始したところ、温泉が湧出するに至り、昭和三三年一〇月二二日掘さく工事を完了した。

よつて、参加人は右工事により本件源泉権を取得するとともに、参加人は右契約の停止条件が、成就したことによりそれに伴う一切の権利を被告から譲り受けこれを取得した。

(三)  それで、参加人は、被告に対し、昭和三三年一〇月二二日、和歌山県知事に対し本件源泉権の名義を参加人名義に変更する届出をするよう求め、被告もこれを承諾していた。

(四)  ところで、和歌山県白浜においては、和歌山県知事に対し、源泉権の名義変更届出をし、その書換をうけなければ、県の温泉行政上温泉権者としての取扱いをうけることができず、したがつて参加人としては、温泉増掘、湧出量増加のための動力装置の設置許可申請等をすることができない。

2(一)  また、参加人は、被告との間で昭和三〇年一月二三日前項記載の温泉掘さく契約を締結する際に、別紙物件目録三の1記載の地上権設定契約を締結した。

(二)  仮に右地上権設定契約が認められないとすれば、同日別紙物件目録三の2記載の賃貸借契約を締結した。

(三)  従つて、仮に、原告が本件各土地を取得したとしても被告の賃貸人たる地位をも、原告が承継した。

3  しかるに、原告は第二の一主張のとおり本件源泉権を取得したと称して、参加人の本件源泉権およびこれに付帯する本件地上権ないし賃借権を無視し、昭和四一年五月七日別紙物件目録一の3乃至9の土地について、和歌山地方裁判所田辺支部同年(ヨ)第二六号事件による現状変更禁止、占有移転禁止、立入禁止の仮処分決定をうけ、その執行をした。

その結果、参加人は、右地上権ないし賃借権に基づく本件土地の使用収益を妨げられ、そのため本件源泉権に基づく使用収益のみならず本件温泉の管理も妨げられ、本件温泉は廃泉寸前の状態にある。

4  よつて、原告は以上の理由により、原・被告に対し、つぎの請求をする。

(一) 原告に対し、本件源泉権が参加人に属することの確認。

(二) 被告に対し、本件源泉権の名義変更届出。

(三) 原・被告に対し、参加人が前記地上権または賃借権を有することの確認。

(四) 原告に対し、本件源泉権に基づく前記妨害の排除。

二、(参加人の請求原因事実に対する被参加人らの答弁)

1  原告

請求原因(第三の一)の1の(一)乃至(三)、同2の(一)、(二)の事実は不知、同(三)の事実は否認する、同1の(四)の事実は認める。

同3の事実中、原告が本件源泉権を買受けたこと、参加人主張の仮処分命令とその執行のあつたことは認める。

2  被告

請求原因(第三の一)のlの(一)の事実を否認する。もつとも、別紙物件目録一の3乃至9について、参加人、被告、訴外前垣長太郎、同小島鉄山の間で参加人主張のころ、つぎの契約が締結されたことはある。

(一) 温泉湧出を目的として参加人が掘さく工事をする。

(二) 掘さくに要する費用は、被告および訴外前垣が負担する。

(三) 参加人は、労務および機械工具を提供する。

(四) 温泉湧出の際は、右四者が改めて協議し、源泉権を土地を含めて他に譲渡するか、あるいは資金提供者を見つけて旅館を建てて経営するかを決定する。

そして、右契約に基づき、参加人は、掘さく工事に着手し、これに要した費用の大部分は被告が負担し、一部を訴外前垣が負担した。

請求原因1の(二)の事実中、温泉が湧出したことは認めるが、その余は否認する。

同(三)の事実は否認する。

三、(被参加人らの抗弁等)

1  原告

(一) 原告の被告に対する第二の一の2、3主張のとおり、原告は本件源泉権を譲り受けた。

(二) 参加人主張の地上権または賃借権は解除により消滅した。すなわち、参加人は、昭和三八年一二月二七日以降今日に至るまで賃料をまつたく支払わない。これは賃貸人たる原告との信頼関係を破壊するものであり、契約関係を継続することを著しく困難ならしめる不信行為であるから、原告は昭和四四年三月七日の本件口答弁論期日において、右地上権設定契約または賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

2  被告

参加人主張の請求原因1の(一)の契約が仮に成立したとしても、参加人、被告は昭和三八年九月ころこれを合意解除した。

3  参加人の認否

被参加人らの抗弁1の(一)の事実は不知。

同(二)の事実中、賃料を支払つていないことは認める。しかし参加人は、本件温泉からまだ一銭の利益もあげていないので、賃料支払時期は未到来である。

同2の事実を否認する。被告は、参加人に対し、昭和四〇年六月初めころ、本件温泉の渫え工事をするに際し、本件源泉権が参加人の所有であることを確認し、本件源泉権の譲渡届をすることをも承諾していた。

四、(参加人の再抗弁等)

1  仮に被参加人らの抗弁1の(一)の事実があるとしても、参加人が第二の三の2の(二)で主張のとおりその売買契約は公序良俗に反し無効である。

2  また、原告が本件源泉権および本件土地を取得したとしても、原告は本件源泉権についてはその公示方法を欠くものとして、その取得を参加人に対し対抗できない。それに、本件源泉権や本件土地の取得について公示方法たる登記等があつても、原告はいわゆる背信的悪意取得者で、民法第一七七条にいう第三者には該当しないので、参加人は本件源泉権や地上権借地権について、その公示方法がなくとも原告に対しその権利を対抗できる。

すなわち、すでに原告に対する参加人の抗弁として第二の三の2の(二)で述べたところであるが、原告は本件源泉権および右土地を取得するにあたつて、訴外高島徹三をして現地を調査させているから、参加人が本件源泉権を所有占有し同時に前記土地を占有使用していたこと、被告から参加人への本件源泉権の名義書換手続および右土地の譲渡手続をめぐつて紛争中であつたことを当然原告も承知していた。しかるに山口浩資と被告の通謀に原告代理人高島徹三も加わつて、参加人の本件源泉権および本件土地に対する地上権ないし賃借権を無視して不当の利益をあげようと企て、あえて原告が本件源泉権および前記土地の取得名義を有するにいたつたものである。

3(一)  さらに、参加人主張の地上権や賃借権について原告に対しその対抗要件を要するとすれば、参加人は昭和三〇年一月頃本件土地上に作業所建物・ポンプ室(倉庫)を建て、昭和四〇年二月には本件温泉湧出口の上に鉄骨製温泉櫓を建設し、同櫓に「竹末工業二号温泉竹末一郎所有」と書いた看板(木枠の上に白色のカラートタン板を釘で打付け、その上に黒ペンキで書いたもの)を取付け右作業所建物(木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建作業所一棟、床面積三八・六四平方メートル)およびポンプ室(倉庫)(木造亜鉛鋼板葺平家建倉庫一棟、床面積九・七二平方メートル)の所有権保存登記を和歌山地方法務局田辺出張所昭和四四年三月一七日受付第二、五五八号をもつてなした。

よつて参加人の本件地上権ないし賃借権は原告に対抗することができる。

五、(再抗弁に対する被参加人原告の認否と再々抗弁)

1  再抗弁(第三の四)の1、2の事実を否認する。

同3の(一)の事実を争い、参加人が昭和四一年五月ころから本件土地に木造亜鉛メツキ鋼板葺バラツク小屋一棟床面積約一六平方メートルおよび鉄塔を建設し、参加人主張の看板が右鉄塔に掲げられている事実を認める。

2  そして、原告は前記買受けと同時に、すなわち昭和三八年一二月二七日本件源泉権および本件土地の引渡をうけ、訴外日商土地開発株式会社にその管理を委ね、同日ころから「日商土地開発管理地」「滝本忠夫所有温泉」なる趣旨の表示を掲げて来たが、いつしか何者かにより撤去され再三にわたつて掲げ今日に及んでいる。その間、参加人は、昭和四一年五月ころ、本件源泉権および本件土地が原告の所有であることを知りながら、原告の管理不十分に乗じ、参加人主張の建築物を設け原告の占有を妨害したので、原告は、昭和四一年五月六日和歌山地方裁判所田辺支部に対し占有移転禁止、立入禁止等の仮処分を申請し、翌七日右決定に基づきその執行をなした。

よつて、参加人が本件源泉権を被告から譲り受けたとしても、原告に対抗できないものである。

六、(参加人の主張)

右五の2の被参加人原告の再々抗弁事実中、原告主張の仮処分のなされたことを認め、その余を否認する。仮に、原告主張のような表示がなされていたとしても、それはその表示自体からも明らかなように「日商土地開発管理地」の表示であつて「滝本忠夫所有温泉」なるものはつけたりにすぎず、またそれは継続して存在したものでもないから、これをもつて近代法の原則である取引安全のための物権変動の公示方法と認めることはできない。

第四、証拠〈省略〉

理由

一、被告は、原告が当事者適格を欠き本件訴は不適法である旨主張する。

原本の存在および成立について争いのない乙第二一号証、原被告間では被告名下の印影の成立については争いがなく証人竹内政敏、同高島徹三の各証言および被告本人尋問の結果によつて全部真正に成立したものと認められる甲第一乃至第三号証、右各証言、証人鈴木喜久、同木村晴一の各証言および原告本人尋問の結果によれば、原被告間の本件土地および本件源泉権の売買は、日商こと訴外西川芳夫の使用人高島徹三がその指示に従つて成立せしめたもので、原告が右売買の交渉に関与した事実がないこと、原告は当初訴外西川芳夫から温泉つきの本件土地買いうけをすゝめられその代金一、五〇〇万円は同人からこれを借りうけたものとしてその買受名義人となつているが、その間、原告が前記売買に直接関与しておらず、また、右売買で原告の代理人となつている高島徹三とも当時全然面識がなかつたこと、それに、右代金一、五〇〇万円の貸借についても借用証の作成すらなかつたこと、さらに、右売買に関する紛議にそなえ訴外西川芳夫は当時原告とまつたく関係のなかつた東京地方裁判所をその管轄裁判所とすることを指示し、被告をしてそれに同意せしめていること、等が認められる。しかし、原告が訴訟外においても、訴訟上でもすべて訴外西川芳夫のなすままに放任していたものとまで認めるに足る証拠はない。

そして前記認定の事実関係から訴外西川芳夫が前記売買の実質上の当事者であつて、その権利名義を訴訟実施の目的で原告としていること、あるいは、同訴外人が訴訟実施権のみを原告に与えているものと認めるに足る証拠もないので、原告による本件訴訟を直ちに訴訟信託ということはできず、従つて、原告が当事者適格を欠くものとすることもできず、被告の妨訴抗弁は理由がない。

二、1 原本の存在および成立について争いのない甲第八号証、参加人と被告の間では被告名下の印影が被告の印顆によるものであることについては争いなく、証人小島伝吉、同吉田末吉、同前垣長太郎の各証言および原告・参加人各本人尋問の結果によつて原本の存在および成立を認めうる丙第一号証、参加人と被告との間ではその成立が争いなく証人前垣長太郎の証言によつて真正に成立したものと認められる丙第七号証、証人小島伝吉(後記信用しない部分を除く)、同竹末栄三、同前垣長太郎の各証言、被告(後記信用しない部分を除く)・参加人(第一、二回)各本人尋問の結果を総合すると、被告は昭和二八年五月頃その所有にかゝる本件土地での温泉掘さくについて和歌山県知事の許可を受けたが、資金難から右許可期間内に掘さく工事に着工できず、さらに一年の期間延長を認められていたこと、参加人は当時同県勝浦町において「竹末工業」「南紀地下工業」という名称でボーリング業をいとなんでいたこと、被告は昭和三〇年初めころ参加人に対し右温泉掘さく工事を依頼し、参加人は右掘さく工事費用を負担するかわりに、温泉掘さくが成功した場合には、その源泉権は参加人のものとするという前提条件でこれに応じ、同年一月二三日、次の温泉掘さく工事契約(丙第一号証)を締結したこと、すなわち、被告は、参加人の右前提条件を承諾し、これを約定の骨子として

(一)  被告名義でえた前記温泉掘さく許可に基づく権限一切を参加人に提供する。

(二)  参加人は、直ちに温泉掘さくに着工する。

(三)  被告は、その許可名義人として、温泉掘さくが成功し、源泉権が成立し参加人がこれを取得するときは、必要な諸手続一切を参加人のためにしなければならず、その温泉利用許可があつたときは直ちに参加人名義に変更手続をする。

(四)  参加人は、温泉湧出し利益をえるにいたつたときは、被告に対し謝礼をする。

(五)  参加人が、被告に対し温泉汲取、送泉等に必要とする施設に要する土地を時価相場で買受ける申込をしたときは、被告は時価でこれを売渡さねばならない。

(六)  その他。

そして、参加人は、直ちに右掘さく工事に着工し、昭和三三年一〇月二二日温泉が湧出するにいたつたこと、被告が昭和三五年一月一〇日和歌山県知事に対し、その名義で工事終了届を、同年八月五日温泉汲取に要する動力装置設置許可申請をし、昭和三六年四月二五日観光委員会の議を経て温泉利用許可申請をしたこと、また、参加人はその間しばしば被告に対し本件源泉権を参加人名義とすることを求め、昭和三六年には、被告を債務者として本件源泉権に関する仮処分命令申請におよんだが、結局右申請を取下げたこと、しかし現在にいたるまで被告は参加人名義とする手続に応じていないことが認められ、右認定に反する証人松本寿江、同松本リヨ、同小島伝吉の各証言の一部、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分はいずれも信用できず、また被告主張の内容をもつ被告参加人間の契約を認めることのできる証拠はない。

以上の事実によれば、前記温泉の湧出によつて温泉掘さく工事が成功したものと認められるところ、それによつてその土地所有者であつて前記温泉掘さく許可名義人である被告が一たん温泉源から温泉を採取する等の権利、すなわち、源泉権を取得してこれを参加人に譲渡するものではなく、前記約旨から参加人はその頃本件源泉権を原始的に取得したものと解すべきである。なお、被告がその土地所有者であり、温泉はそもそもその土地の構成物と解することができる関係から、あるいは、被告がその名で温泉掘さく工事許可をえ、ついでその終了届けをなし、また、動力装置設置許可申請、温泉利用許可申請等をしている関係から、被告のみがまず本件源泉権を取得できるものであると解さなければならない法理上の根拠はなく、また、それに反する契約をもつて無効とすべき事情等を認めることができる何らの証拠もない以上被告が土地所有者であることや右申請の事実も前記認定の妨げとなるものではない。

2 ところで、被告は、昭和三八年九月ころ前記温泉掘さく契約を合意解除した旨主張するが、かゝる事実を認めるにたる信用できる証拠はない。かえつて、前記丙第一号証同第七号証証人小島伝吉、同竹末栄三、同松本リヨ、同前垣長太郎の各証言、被告・参加人(第一、二回)各本人尋問の結果によると、被告は前記掘さく工事の成功により、参加人がその源泉権を取得したことに不満をもち、参加人が温泉の登録名義人となることにも協力しなかつたこと、参加人はついに昭和三六年頃被告を債務者として右源泉権に関し仮処分の申請に及んだこと、前記契約立会人であつた訴外小島鉄山こと小島伝吉、訴外前垣長太郎は、当時参加人を代表者とした前記「竹下工業」「南紀地下工業」に関係しており、前記掘さく工事の費用は同事業の経理から支出されていたのみならず、同訴外人らも前記掘さく工事に自ら従事した関係もあつて、右仮処分申請に至つた被告と参加人の間をあつせんしたこと、そして、右申請は取下げられるに至つたが、その際参加人の本件源泉権取得等による関係者の利害調整についてのとりきめは成立しておらないこと、ついで、昭和三八年夏ころ参加人、被告と右訴外人ら四名間で、本件温泉を同年中に一、〇〇〇万円以上で売りはらい、一、〇〇〇万円をこえる代金部分は、被告が取得し、残余の一、〇〇〇万円を参加人と右両訴外人とで分配する案がもちあがり、参加人を除く三名はそれに同意し、その処分を被告に委ねることにしたが、参加人は同意をしぶつたこと、しかし、被告は、参加人の二男で前記掘さく工事を三年余にわたつて担当した竹末栄三が右案に同意したので、いずれは参加人の同意をえることができるものと考え、その売却換金を志し、同年暮には参加人に対し本件温泉の売却代金の一部として五〇〇万円を交付しようとしたが参加人はその受領をこばんだことが認められる。

そして、参加人がその売却に関心をもつた事実はとにかくとして、これを承諾したことを認めるにたる証拠はない。

なお、参加人は、昭和四〇年六月初め頃本件温泉の渫え工事をするに当つて被告が本件源泉権が参加人に属することを確認しその名義登録手続に協力することをも承諾した旨主張し、その原本の存在と成立について争いのない丙第四号証、前記丙第七号証、参加人と被告との間で被告名下の印影が被告の印顆によることは争いがなく証人吉田末吉、同竹末栄三の両証言、参加人本人第一回尋問結果からその原本の存在と真正に成立したことが認められる丙第二、三号証と証人吉田末吉の証言と参加人本人の右尋問結果から右主張事実が認められる。

三、つぎに、原告は本件各土地と本件源泉権を売買により取得した旨主張するが、仮にそのような売買契約の成立が認められるとしても、前記認定のとおり、被告は当初から本件源泉権を取得しておらず、また、参加人による前記原始取得後、参加人においてこれを被告に対し譲渡し、あるいは、原告に対し譲渡した旨の主張立証がない以上、原告においてこれを取得するわけがないことは明らかである。

そうすると、さらに判断をすゝめるまでもなく、原告の本件源泉権の取得を原因とする被告に対する請求は理由がなく、これを棄却すべきものとする。

四、さらに、参加人は、原告に対する関係で、本件源泉権が参加人に属することの確認を請求するので検討する。

1  いわゆる源泉権(温泉権、温泉専用権、湯口権とも称される)は一種の慣習法上の物権と認めることができるが、かゝる権利の取得や変動についても対抗要件たる公示方法がとられて始めて取引関係にある第三者に対抗しうべきことはいうまでもない。本件源泉権についても、参加人においてこれを原始取得した後その対抗要件を具備したかどうかであるが、一般に源泉権者が温泉の採取、利用、管理のための施設によつて現実に源泉を継続して管理・支配しているという客観的事実が存在する場合、それによつて、その権利が公示されているものと解し第三者にも対抗できるものというべきである。

2  これを本件源泉権についてみると、成立に争いのない丙第五、六号証の各一、二、丙第八号証証人武内政敏、同小島伝吉、同安田義峰、同竹末栄三、同前垣長太郎の各証言、参加人本人尋問の結果(第一、二回)によれば、参加人は昭和三〇年初め本件掘さく工事を開始するにあたつて、本件土地上に木造トタン葺作業所、ポンプ室(床面積合計四平方メートル余り)、(別紙図面参照)温泉櫓を建造し、掘さくを始め、前認定のとおり温泉湧出に成功したが、ひき続き参加人は右建物等を所有して右源泉の管理に当り、その後作業所、温泉櫓が台風等のためしばしば破損したが、その都度にこれを建てなおしていたこと、そして、昭和四〇年二月頃からは右櫓上に参加人の所有を表示した看板を掲げ、また、昭和四四年三月一〇日には右作業所、ポンプ室の建物について参加人名義で保存登記をして、現在に及んでいること、なお、右看板をかゝげ、右作業所について参加人名義の保存登記がなされる以前においても参加人がそれら作業所や櫓によつて本件温泉を管理していることは同地域においては全く容易に判明することを推認できること等が認められる。そして、以上認定の建物等は本件源泉権に従たる相当な施設物であつて、外界から容易に認識することのできる客観的存在で、本件源泉権の明認方法と認めるにたる標識というべきである。従つて参加人の本件源泉権はその対抗要件を当初から具備しているものといわねばならない。

しかるに、原告が参加人の有する本件源泉権を争い、その取得を主張することは弁論の全趣旨から明らかであるから、参加人が原告に対する関係で本件源泉権を有することの確認を求める請求はさらに判断をすゝめるまでもなくその利益があるものと認め、これを認容すべきものとする。

五、さらに、被告が本件掘さく工事許可名義人であり、その温泉掘さくが成功し、参加人がその源泉権を取得したこと、被告は、参加人が源泉権の名義人となるため一切の手続に協力することを約し、従つて、その温泉利用許可をうけたときは直ちにこれを参加人名義に変更することを約したことは前認定のとおりである。また、被告が昭和四〇年六月始め右義務の履行を参加人のため確認したことも前認定のとおりである。そして、前示丙第一、二、三号証原本の存在および成立に争いのない甲第四号証、参加人本人尋問の結果(第一、二回)から和歌山県においては、和歌山県温泉法施行細則(昭和二三年和歌山県規則第五八号)第九条による届出を経由したものでなければ、白浜温泉組合に加入できず、また温泉行政上源泉権者としての取扱いをうけることもできないので動力装置設置許可申請等もすることが認められないことが推認できるので、参加人が、その届出名義人となる必要のあることは容易に認められる。ところで右細則第九条は、「温泉関係者」が「温泉を他人に譲渡したとき」はその譲渡人がその届出を要することを規定しているので、参加人は被告が本件源泉権の譲渡人としてその手続を求めるもののようである。

しかし、前記認定のとおり参加人は本件源泉権を原始取得したものであつて、被告からこれが譲渡をうけたものではないのみならず、被告が温泉法に基づく和歌山県知事に対する届出で、すでに被告名義で温泉掘さく許可があつたことは前認定のとおりであるが、本件源泉権自体について被告がその届出名義を有すること、あるいは、被告が温泉利用許可を受けたこと等とにかく被告が本件源泉権譲渡手続をなしうることについては何らの主張立証がない。従つて、参加人がすでに有する本件源泉権についての温泉の利用許可申請による届出名義の変更を求めうる場合等はとにかくとして、参加人が被告に対し本件源泉権の名義変更届を求める請求は、その理由がないものと認めざるをえずこれを棄却すべきものとする。

六、次に、参加人は被告と前認定の温泉掘さく工事契約に際し別紙物件目録三の1〈省略〉の地上権または同2〈省略〉の賃借権設定契約を締結した旨主張する。

前記甲第四号証丙第一号証、証人小島伝吉、同安田義峰、同竹末栄三の各証言と被告本人、参加人本人(第一回)の各尋問結果を合せ考えると、被告は参加人に対し、前記温泉掘さく工事契約に際し、その掘さくに必要な本件土地の使用を参加人に対し承諾していたこと、そして、右掘さく工事が成功したときは温泉汲み取りやその施設に要する土地を時価相場で売り渡すことを予約し、また、右売買にいたらない場合も参加人は被告に対し右土地使用に際し相応の謝礼をすることをも約し、右「謝礼」には本件土地の地代の約定も含むものであること、また、温泉掘さく工事には、温泉櫓や掘さく機械道具等を必要とするのみでなく、掘さく成功の場合はひきつゞきそれに応じた施設を必要として、その土地の使用を要することはいうまでもなく、被告もよくこれを了承していたことは認められる。しかし、参加人主張の地上権や賃借権についての明示黙示の合意があつたことを認めるにたる証拠はないので、さらにその余の点について判断をすゝめるまでもなく原・被告に対するこの点に関する参加人の請求は理由がなく、これを棄却すべきものとする。

七、そもそも源泉権とは、それに基づいて温泉を採取・利用・管理することができる一種の物権的権利であると解するから、その権利の行使を妨害するものに対しその妨害の排除を求めることができることはいうまでもない。従つてその温泉の存在する土地の所有者といえども右源泉権の成立が認められる以上これを侵害することはできず、その侵害のおそれがあるときは、かゝる土地所有者に対しても源泉権に基づいて妨害排除請求ができるものと解するのが相当である。そして温泉法第三条第二項が温泉掘さくの許可を受けようとするものは掘さくに必要な土地を掘さくのため使用する権利を有するものでなければならないと定めていることは、源泉権が成立した場合について特別の約定がある場合を除いては、右掘さくのための土地使用関係をもつて源泉権成立後の源泉権の内容の一である土地使用関係について重要な規準を与えるものと解することができる。

従つて、参加人はその源泉権の効力として、土地所有者に対する関係ではひきつゞき温泉の採取、利用、管理のために必要とする本件土地の使用権限を有するものと解するのが相当である。また、民法の相隣関係に関する規定に準じて、「源泉権者の為に必要にしてかつ土地所有者のために損害最も少なき範囲」に限ると解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記認定のとおり参加人は本件源泉権を原始的に取得した当時からすでにその公示方法を有し、その後、原告がその主張どおり昭和三八年暮頃本件土地の所有権を取得し、その登記手続を了したものとするも、本件源泉権の公示を土地登記簿による公示方法に限るべき理由がない以上、参加人が原告に対しこれを対抗できることはいうまでもないところで、原告が参加人を被申請人として、昭和四一年五月六日和歌山地方裁判所田辺支部に対し、その土地所有権を譲り受けたことを理由に占有移転禁止、立入禁止等の仮処分申請をなし、その旨の決定を得て翌七日その執行をしたことについては原告と参加人間においては争いがなく、被告はこれを明らかに争わないから自白しているものとみなすから、原告は参加人の源泉権の行使を妨害しているものということができる。

それで、参加人の本件源泉権の及ぶ範囲を検討するに、前記丙第七号証、その成立について当事者間に争いがない甲第六ないし第八号証、丙第五、第六号証の各一、二、同第八、第九号証、証人安田義峰の証言、検証の結果と弁論の全趣旨によると本件源泉権は本件土地中物件目録一の3のうちに湧出口を有する温泉について成立しているもので、参加人は前記認定のとおり被告から本件温泉の掘さくに必要な土地を使用する権限を委ねられ、右土地上に作業所ポンプ室温泉櫓を建造所有し、その後これらはしばしば修理や建てなおしがなされて現在に至つているが、その所在場所は別紙図面にある作業所ポンプ室の所在場所とおおよそ相異がないこと、これら建物と工作物は本件源泉権による温泉の採取、利用、管理のため必要欠くべからざるものであることが認められる。そして、その敷地として同図面中ロ、ホ、ニ、ハをつなぐ各直線と右筆の西側道路との境界線で囲まれた範囲の土地を使用することも右温泉の採取、利用、管理のため必要やむをえないものと認めることが相当である。

従つて、参加人の原告に対する右土地の範囲での妨害排除請求は理由がある。

八、よつて、原告の被告に対する請求は理由がないから棄却し、参加人の請求のうち前示理由あるものを認容し、理由のないものは棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡悌次 渡辺剛男 赤塚信雄)

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